でも!)それがゴソリゴソリと地主に取り上げられて行くのを見ると、もとはちっともそうでなかったのに、妙に投げやりな、底寒い気持になった。切り[#「切り」に傍点]がない、と思わさった。――「何んだい模範青年が!」――阿部の云ったことが、思い当ってきた。
それから健は、誰にでも「模範青年」と云われると、真赤になった。
「武田」
会が始まった。
「開会の辞」で武田が出た。如何にも武田らしく演壇に、兵隊人形のように直立して、演説でもするように、固ッ苦しい声で始めた。聞きなれない、面倒な熟語が、釘ッ切れのように百姓の耳朶《みみたぶ》を打った。
――……この危機にのぞみ、我々一同が力を合わせ、外、過激思想、都会の頽風と戦い、内、剛毅、相互扶助の気質を養い、もって我S村の健全なる発達を図りたい微意であるのであります。
――……なお、此度《このたび》は旭川師団より渡辺大尉殿の御来臨を辱うし、農場主側よりは吉岡幾三郎氏代理として松山省一氏、小作方よりは不肖私が出席し、ここに協力一致、挙村円満の実をあげたいと思うのであります。
七之助は聞きながら、一つ、一つ武田の演説を滑稽にひやかし
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