きりなしに笑っていた。女の話[#「女の話」に傍点]をしていた。伊達に眼鏡をかけたり、黒絹のハンカチを巻いたりしている。然し青年団の仕事や「お祭り」の仕度などでは、娘達とフザ[#「フザ」に傍点]けられるので、それ等は先きに立って、よく働いた。
 子供達は「鬼」をやって、走り廻っていた。大人達を飛び越え、いきなりのめり込んだり――坐っている大人を、まるで叢のように押しわけて、夢中で騒いでいた。時々、大声で怒鳴られる。が、すぐ又キャッキャッと駈け出す。……煙草の煙がコメて、天井の中央に雲のように、層をひいていた。

     「阿部さん」

「小樽さ行《え》ぐごとに決ったど。」
 阿部と一緒に七之助がいて、健を見ると云った。
「工場さ入るんだ。――伯母小樽にいるしな。……んでもな、健ちゃ、俺あれだど、百姓|嫌《えや》になったとか、ひと出世したいとか、そんな積りでねえんだからな。――阿部さんどよく話したんだども、少しな考えるどこもあるんだ……」
「ん……」――健は分っていた。
「村ば出れば、案外、村が分るもんだからな。」
 阿部が何時もの低い、ゆるい調子で云った。――農場で何かあると、それが子
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