な鉄砲が三挺組合せて飾ってある。――乃木大将の話は百姓は何度きいても飽きなかった。
 演壇には「S相互扶助会」発会式の順序と、その両側に少し離して、この会が主旨とする所の標語が貼り出されていた。
  ┌───────────┐
  │ 海田山林の開発より │
  │  心田を開拓せよ! │
  └───────────┘

  ┌───────────┐
  │ 強靱なる独立心と  │
  │ 服従の美徳と    │
  │ 協同の精神へ!   │
  └───────────┘

 会が終ってから、「一杯」出るという先触れがあったので、何時になく沢山の百姓が集っていた。「停車場のあるH町」からも来ていた。大概の小作は、市街地の旦那やH町の旦那から「一年」「二年」の借金があるので、一々挨拶して歩かなければならなかった。
 小作が挨拶に行くと、米穀問屋の主人は大様にうなずいた。
「今年はどうだ?」
「ええ、まア、今のところは、ええ、お蔭様で……」
 小作は腰をかがめて、一言一言に頭を下げた。――それが阿部や健たちの居る処から一々見える。健も借金があった。こんな時に、一寸挨拶して置けば、都
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