」、屋号を示す記号、257−上−20]は貸金の回収をうけると同時に、それを又売り[#「又売り」に傍点]して、そこから利ざやを――つまり二重に儲けていた。
 在郷軍人分会長、衛生部長、学務何々……と、肩書をもっている※[#「┐<△」、屋号を示す記号、257−下−3]の旦那のようになりたい、それが小作人の「夢」になっている。――小作人達は道で、※[#「┐<△」、屋号を示す記号、257−下−4]の旦那に会うと、村長や校長に会った時より、道をよけて、丁寧に挨拶した。「青年訓練所」では、※[#「┐<△」、屋号を示す記号、257−下−6]の旦那が「修養講話」をやった。

     夜道

 健達は、士官の訓練が終って、※[#「┐<△」、屋号を示す記号、257−下−8]の「修養講話」になると、疲れから居睡りをし出した。「青年の任務」「思想善導」「農民の誇」……何時《いつ》もチットモ変らないその講話は、もう誰も聞いているものがなかった。
 外へ出ると、生寝《なまね》の身体にゾクッ[#「ゾクッ」に傍点]と寒さが来た。霧雨は上っていたが、道を歩くと、ジュクジュクと澱粉靴がうずまった。空は暗くて見えなかった。然し頭を抑えられているように低かった。何かの拍子に、雨に濡れた叢がチラチラッと光った。
「もう一番[#「一番」に傍点]終ったか?」――後から七之助が言葉をかけた。
 健はたまらなく眠かった。「ええや、まだよ、人手がなくなってな。」
 誰かがワザと大きくあくび[#「あくび」に傍点]をした。
「健ちゃは兵隊どうだべな。」
「ん、行かねかも知らねな。……んでも、万一な。」
「その身体だら行かねべ。青訓[#「青訓」に傍点]さなんて来なくたってええよ。」
 すると今迄黙っていた武田が口を入れた。――「徴兵の期間ば短くするために青訓さ行《え》ぐんだら、大間違いだど!」
 初まった、と思うと、七之助はおかしかった。
「あれはな、兵隊さ行ぐものばかりが色々な訓練を受けて、んでないものは安閑としてるべ、それじゃ駄目だッてんで、あれば作ったんだ。兵隊でないものでも、一つの団体規律の訓練をうける必要はあるんだからな。」
「所で、現時の農村青年は軽チョウ浮ハクにして、か!……」
 七之助が小便しながら、ひやかした。叢の葉に、今迄堪えていたような小便が、勢よくバジャバジャと当る音がした。
「ん。」――武田が真
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