健は然し、※[#「┐<△」、屋号を示す記号、320−上−18]がそんな「偉い」ことを云って歩いていながら、吉本管理人とちアんと結び合っていること――吉本と争議のことで、H町の料理屋で会ったことを知っていた。
「恐ろしいもんだな。」
「恐ろしいもんだよ。――何処で、どう関係があるか、表ばかりの云うことや、することを見ていたんじゃ分らないんだ。」
荒川が健から聞くとそう云った。「糸を手繰ると、飛んでもなく意外な奴が、実は一緒になってるもんだよ。」
学校では由三達が市街地の子供からいじめられた。
あの「温厚な人格者」の校長が(健は殊にそう思っていたのだ!)時間がある毎に、小作争議のことを「不祥事だ」「不祥事だ」と云った。「若しお前達の親や兄弟で、あんな悪いことをするものがあったら、やめさせるように一生ケン命お願いしなければならない。」
先生の云うことなら、どんな事でもそのまま信じこむ由三は、家へ帰ると健に泣きついた。――由三は学校へ行くと、いじめられるので時々休んだ。そして健のところへ来た。手紙を届けたり、ビラを配るのに手伝った。――「学校さ行《え》ぐより、ウンとええわ。」
お恵は髪に油をテカテカつけたしゃれ男[#「しゃれ男」に傍点]とブラブラしていた。
「兄ちゃば皆偉いッて云ってるど。」
健が遅く帰ってくると、腹這いになって、講談本を読みながら、見向きもしないで、ヘラヘラした調子で云った。
「この恥ざらし!」
「んだから偉いんだとさ。」
健はだまった。
彼は自分の妹や母親のことでは、どの位阿部や伴に肩身が狭いかわからなかった。
[#改段]
十一
「千回もやってくれ」
第一回の「岸野小作争議演説会」が町の活動小屋で開かれた。――各農場相手に生活をしている町民や、他の農場の小作達も遠いところから提灯をつけてやって来た。
「割れる程」入った。
健は始めて「演壇」に上がった。壇へ上がると、カッと興奮してしまった。途中で、何を云ったか分らなくなってしまった。分らなくなると、周章てるだけだった。――時々、拍手と、「分った分った」「もうやめれ!」「その通り!」そんな野次の切れ端しを覚えているだけだった。下りて裏へ行くと、キヌの妹が、
「上出来だよ、健ちゃ!」と云った。
演説会は大きな反響を起した。――それから一週間もしないうちに、他
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