だ。んだから、外の地主も俺達のば何んとかして、うやむやにしてしまいたいので調停委員の後さこっそりついてるんだとよ。
小作官などは「この事件を無いことにしてくれれば、岸野さんからお前等に慰労金を出させてもいいんだが、――社会のためにも、その方がいいんだ」と云ったものだ。
聞いたか?――みんなグルだ。
もう残ったものは俺達ばかりよ。――こうなったら、皆! 意気地なく黙って首ば縊るか? もう一日だって食えねえんだからな。それに岸野は腕ずくでも取ってみせるッてるんだ。――それとも死にたくなかったら、最後までやるか?――もう、このどっちかに来ているんだ。どっちかだ。
んで、どっちだ!
――伴は自分でも泣いていた。
次に組合の荒川が「争議団」を組織して、即刻戦闘の準備をしなければならないことを、皆に話した。「鉄は赤いうちに!」
寒い雨が降っていた。――もう冬が近い。そしてそれが知らない間に氷雨になっていた。さすがの(実際、さすがの、と健には思われた。)小作人もありありと興奮の色を顔に出していた。
「そんなことまでやるのか! 畜生奴!」
皆は雨の中を帰って行った。出口で傘をさすと、急に雨の音がやかましくなった。どざ[#「どざ」に傍点]だけをかぶって、肩を濡らして行くものもいた。雨に声を取られないように、大きな声でお互に話しながら帰って行った。
阿部、伴、健、荒川、その他小作人三人、組合員二人――これだけが、二日の間に三時間位しか寝らずに、「岸野小作争議団」結成のために馳けずり廻った。ビラを書いたり、謄写版の原紙を書いたり、刷ったりした。――健は始めての色々な経験で興奮していた。
人数が纒って来た。――今迄健が捨石のように廻って歩いていたのが、案外役に立った。
佐々爺や武田は、訪ねて行くと、訳の分らない議論を吹ッかけた。争議団のものが分らないで、つまると、
「そんなんで地主さ楯つけるか?」
と、嘲笑《わら》った。
武田が吉本管理人と相談し合って、小作人の切り崩しをやっている噂が入っていた。
荒川が鉄筆で頭をゴシゴシやりながら、
「こうなったら佐々爺とか武田、それに『のべ源』あんなものに気をつけなけア駄目だ。――何んしろ金[#「金」に傍点]でやってくるんだからな。」
やもめの勝が、芋と唐黍を子供に背負わせて、伴の家にやってきた。
「――※[#感嘆符疑問符
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