ほこり」に傍点]をかぶっている、広い葉を持った名の知れない草を見ていた。四方の建物が高いので、サン/\とふり注いでいる真昼の光が、それにはとゞいていない。それは別に奇妙な草でも何んでもなかったが――自分でも分らずに、それだけを見ていたことが、今でも妙に印象に残っている。理窟がなく、こんなことがよくあるものかも知れない。
 俺は今朝Nが警察の出がけに持ってきてくれたトマトとマンジュウの包みをあけたが、しばらくうつろ[#「うつろ」に傍点]な気持で、膝の上に置いたきりにしていた。
 控室には俺の外にコソ[#「コソ」に傍点]泥《どろ》ていの髯《ひげ》をボウ/\とのばした厚い唇の男が、巡査に附き添われて検事の調べを待っていた。俺は腹が減っているようで、食ってみると然しマンジュウは三つといかなかった。それで残りをその男にやった。「髯」は見ている間に、ムシャムシャと食ってしまった。そして今度はトマトを食っている俺の口元をだまって見つめていた。俺はその男に不思議な圧迫を感じた。どたん場へくると、俺はこの男よりも出来て[#「出来て」に傍点]いないのかと、その時思った。
 自動車は昼頃やってきた。俺は窓と
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