それ以上の屁が出るで弱ってしまった。これではかえって隣りにいる同志はキット俺の健康を気遣《きづか》っているかも知れない。
俺はどうしたのかと思った。診察のとき、屁のことを医者に云った。
「それは醗酵《はっこう》し易い麦飯を食って、運動が不足だからですよ。」
と、このお抱え医者は事もなげに云って、それでも笑った。
そのことがあってから、俺は屁の事について考えた。此処にいると、どんなに些細《ささい》なことに対しても、二日も三日もとッくりと考えられるのだ。そして、これからは次々と出くる屁を、一々|丁寧《ていねい》に力をこめて高々と放すことにした。それは彼奴等《きゃつら》に対して、この上もないブベツ弾になるのだ。殊にコンクリートの壁はそれを又一層高々と響きかえらした。
しばらく経ってから気付いたことだが、早くから来ているどの同志も、屁ばかりでなく、自分独特のくさめ[#「くさめ」に傍点]とせき[#「せき」に傍点]をちアんと持っていて、それを使っていることだった。音楽的なもの、示威的なもの、嘲笑的なもの……等々。
夜になって、シーンと静まりかえっているとき、何処かの独房から、このくさめ[
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