ちにいて、夜ばかり使ったからである。それで一緒に室の中に坐るという事が尠《すく》なかった。そういう状態が一月し、二月するうちに、笠原は眼に見えて不機嫌《ふきげん》になって行った。彼女はそうなってはいけないと自分を抑えているらしいのだが、長いうちには負けて、私に当ってきた。全然個人的生活の出来ない人間と、大部分の個人的生活の範囲を背後に持っている人間とが一緒にいるので、それは困ったことだった。
「あんたは一緒になってから一度も夜うちにいたことも、一度も散歩に出てくれたこともない!」
 終《しま》いには笠原は分り切ったそんな馬鹿なことを云った。
 私はこのギャップを埋めるためには、笠原をも同じ仕事に引き入れることにあると思い、そうしようと幾度か試みた。然《しか》し一緒になってから笠原はそれに適する人間でないことが分った。如何にも感情の浅い、粘力のない女だった。私は笠原に「お前は気象台[#「気象台」に傍点]だ」と云った。些細《ささい》のことで燥《はしゃ》いだり、又逆に直《す》ぐ不貞腐《ふてく》された。こういう性質《たち》のものは、とうてい我々のような仕事をやって行くことは出来ない。
 勿論《もちろん》一日の大半をタイピストというような労働者の生活からは離れた仕事で費し、帰ってきてからも炊事や、日曜などには二人分の洗濯などに追われ、それは随分時間のない負担の重い生活をしていたので、可哀相《かわいそう》だったが、彼女はそこから自分でグイと一突き抜け出ようとする気力や意識さえもっていなかった。私がそうさせようとしても、それに随《つ》いて来なかった。
 私は自動車を途中で降り、二《ふた》停留所を歩き、それから小路に入り、家に帰ってきた。笠原は蒼《あお》い、浮かない顔をして室の中に横坐りに坐っていた。私の顔をみると
「首になったわ……」
と云った。
 それがあまり突然なので、私は立ったまゝだまって相手を見た。
 ――笠原は別に何もしていなかったのだが、商会では赤いという噂《うわ》さがあった。それで主任が保証人である下宿の主人のところに訪ねてきた。ところが、彼女は以前からそこにいないということが分ってしまった。私のアジトは絶対に誰にも知らしてはならないので、彼女は自分の下宿を以前のところにしてあったのである。商会ではそれでいよ/\怪しいということになり、早速やめさせたのだった。
 私
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