を分けて独立さすことにした。
須山に工新の題を考えて置けと云ったら、彼は「恋のパラシュート」としてはどうだ、と鼻を動かした。
工新は「マスク[#「マスク」に傍点]」という名で出すことになった。私は今工場に出ていないので、Sからその編輯《へんしゅう》を引き受けて、私の手元に伊藤、須山の報告を集め、それをもとにして原稿を書き、プリンターの方へ廻わした。プリンター付きのレポから朝早く伊藤が受取ることになっていた。私は須山、伊藤とは毎日のように連絡をとり、工新の影響を調らべ、その教訓を直ぐ「マスク」の次の編輯に反映さした。
伊藤や須山の報告をきいていると、会社の方も刻々と対策を練っていることが分った。今では十円の手当のことや、首切りのことについては不気味なほど何も云わなくなっていた。それは明かに、何か[#「何か」に傍点]第二段の策に出ているのだ。勿論それは十円の手当を出さないことや、首切りをウマウマとやってのけようとするための策略であることは分る。がその策略が実際にどのようなものであるかゞハッキリ分り、それを皆の前にさらけ出すのでなかったら、駄目だ。相も変らず今迄通りのことを繰りかえしているのならば、皆は我々の前から離れて行く。我々の戦術は向うのブルジョワジーのジグザッグな戦術に適確[#「適確」に傍点]に適応して行かなければならない。私たちの今迄の失敗をみると、最初のうちは何時でも我々は敵をおびやかしている。ところが、敵が我々の一応の遣《や》り方をつかむと、それの裏を行く。ところが我々は敵が一体どういう風にやろうとしているのかという点を見ようともせずに、一本\槍《やり》で同じようにやって行く。そこで敵は得たりと、最後のどたん場で我々を打ちやるのだ。
さすがに伊藤はそれに気付いて「どうも此の頃変だ」という。然しそれが何処にあるのか判らない。
次の日須山は小さい紙片を持ってきた。
掲示
皆さんの勤勉精励によって、会社の仕事が非常に順調に運んでいることを皆さんと共に喜びたいと思います。皆さんもご承知のことゝ思いますが、戦争というものは決して兵隊さんだけでは出来るものではありません。若《も》しも皆さんがマスクやパラシュートや飛行船の側を作る仕事を一生懸命にやらなかったら、決して我が国は勝つことは出来ないのであります。でありますから或《ある》いは仕事に少
前へ
次へ
全71ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング