山が云った。
私たちは今日の決定通りに準備をすすめ、二十六日の夜モウ一度会うことにして、
「じア……」と立ち上がった。そのとき私と須山はそんなことをしようとは考えてもいなかったのに、部屋の真ん中に突ッ立ったまゝ両方から力をこめて手を握り合っていた。
フト須山は子供のようにテレ[#「テレ」に傍点]て、
「何んだ、佐々木の手は小《ち》ッちゃいな!」
と、私に云った。
須山は外へ出ながら、モウこれからは機会もないだろうと思って、私の家《うち》に寄ってきたと云った。「君のおふくろは、合う度に何んだか段々こう小さくなって行くようだ。」と云った。
「…………?」
私は何を云うんだろうと思った。が、フイにその「段々小さくなってゆく」という須山の言葉は、私の心臓を打った。私はその言葉のうちに、心配事にやつれてゆく母の小さい姿がアリアリと見える気がした。――が、こういう時にそんな事を云う奴もないものだ、と思った。私はさりげなく、たゞ「そうだろうな……」と云って、その話の尻《しり》を切ってしまった。
須山と別れてから、伊藤が次の連絡まで三十分程間があるというので、私と少しブラブラすることになった。私たちは、二十六日には須山のために小さい会をしてやろうということを話した。そのために伊藤が菓子とか果物を買ってくることにした。
伊藤は何時もは男のように大股《おおまた》に、少し肩を振って歩くのが特徴だった、それが私の側を何んだが女ッぽく、ちょこちょこと歩いているように見えた。別れるとき彼女は「一寸待ってネ」と云って、小さい店屋に入って云った。やがて、買物の包みを持って出てくると、
「これ、あんたにあげるの――」
と云って、それを私に出した。そして、私が「困ったな!」と云うのに、無理矢理に手に持たしてしまった。
「此頃あんたのシャツなど汚れてるワ。向うじゃ、ヨクそんなところに眼をつけるらしいのよ!」
下宿に帰って、その包みを開けてみながら、フト気付くと私は伊藤と笠原を比較してみていた。同じく女だったが、私は今までに一度も伊藤を笠原との比較で考えてみたことは無かったのだ。だが、伊藤と比らべてみて、始めて笠原が如何《いか》に私と遠く離れたところにいるかということを感じた。
――私はもう十日位も笠原のところへは行っていなかった……。
九
倉田工業の屋上は、新築中の第三工場で、昼
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