ドシ/\使った。それが仲間との間に少しの間隙を作った。それと共に、それらの女工はどこか「すれ[#「すれ」に傍点]」ていた。「運動」のことが分っているという態度が出ていた。――伊藤はその間のそり[#「そり」に傍点]を合わせるために、今色々な機会を作っていた。「小説のようにはうまく行かない」と笑った。
私たちは「エンコ」する日を決め、伊藤が場所を見付けてくれることにした。愈々《いよいよ》最後の対策をたてる必要があった。
「あんた未だなす[#「なす」に傍点]?」
伊藤が立ち上がりながら、そう訊いた。
「あ。」
と云って、私は笑った、「お蔭様で、膝《ひざ》の蝶《ちょう》ちがい[#「ちがい」に傍点]がゆるんだ!」
伊藤は一寸帯の間に手をやると、小さく四角に畳んだ紙片を出した。私はレポかと思って、相手の顔を見て、ポケットに入れた。
下宿に帰って、それを出してみると、薄いチリ紙に包んだ五円札だった。
八
笠原は小さい喫茶店に入ることになった。入ると決まるとさすがに可哀相《かわいそう》だった。運動しているものが、生活の保証のために喫茶店などに入るのは、何んと云《い》っても恐ろしいことで、そういう同志は自分ではいくらしっかりしていようとしても、眼に見えて駄目になって行く。我々にとって「雰囲気」というものは、魚にとっての水と少しもかわらないほど大切なのだ。女の同志が自分一個のためでも、又男と女が一緒に仕事をしていて、とも倒れ[#「とも倒れ」に傍点]からのがれるために喫茶店に入るときでも同じである。ところが笠原の場合、その仕事の訓練さえも持っていないので、ズルズルと低い方に自分の身体を傾けてゆくのは分りきっていた。――だが、どうしても自分の全生涯をとして運動をやろうという気魄《きはく》も持たず、しかも他方私の組織的な仕事は飽《あ》く迄《まで》も守ってゆかなければならぬドタン場に来ている以上、センチメンタルになっていることは出来なかった。
笠原は始め下宿から其処《そこ》へ通った。夜おそく、慣《な》れない気苦労の要《い》る仕事ゆえ、疲れて不機嫌な顔をして帰ってきた。ハンド・バッグを置き捨てにしたまゝ、そこへ横坐りになると、肩をぐッたり落した。ものを云うのさえ大儀そうだった。しばらくして、彼女は私の前に黙ったまゝ足をのばしてよこした。
「――?」
私は笠原の顔を見て、――足に
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