ていた。
「……通信によれば、君は貴地で労働者の研究会を組織することに成功したと云うではないか。僕はすっかり嬉しくなっている。然かも××鉄工所の労働者が七名も参加しているとは何んと素晴しいことだ。たしかに、その××鉄工所は貴地に於ける一番大きな工場だ。大したもんだ。タッタ七名! 誰がそんな軽蔑した言葉を発するのだ。若し我々が何千名と云う工場で、而も懐柔政策と弾圧とで金城鉄壁のような工場に、一人でもいゝ資本の搾取に反対して起《た》とうとする労働者を友人とすることが出来たら、我々はもうそれだけで、この工場の半ばを獲得したも同様なのだ。――要は如何にして、その獲得へ到達するかである。我々の与える政策が正しいなら、途《みち》は急速に開けて行くだろう……。
「で、その研究会だが、君は九人の労働者を物識り[#「物識り」に傍点]に仕立てようとしているのではないだろう。若しそうだとすれば、それは一応労働運動や社会運動やマルクスの経済学を先ず理解させて、然る後組織し、闘争するというあの有名な[#「有名な」に傍点]、陳腐な、そして何時でもシタヽカの失敗と精力の濫費を重ねて来たようなやり方でなしに、――今、その地の労働者は、資本家に対して如何なる不平を持っているか。殊に××鉄工所の労働者の労働条件はどうか。現在持っている労働者の不平をどんな要求に結びつけて闘争を煽動すべきか、という形で進められるべきで、そうしたならばその集会は物識り研究会から、すっかり様子をかえてくる。現実に活《い》きた興味をもって活気が起きてくるのだ。」
――僕等はもうその有名な[#「有名な」に傍点]失敗に足をふみ入れかけていたんではないかな。
それはもう少し続いていた。
「例えば、××鉄工所に闘争激発のために、アジテエションのビラ等を持ち込む場合、その七名の労働者を矢面に立てることは断じて得策でない。それはまだ事の初まらない前に、我々の工場に於ける芽を敵のために刈り取られることを意味しているからである。かゝる仕事は当該工場の外部のもの[#「外部のもの」に傍点]が担当するのが最もいゝ。そして工場内の労働者はそのビラが工場内でどのような反響を起したか、何人の共鳴者があったかを、その晩の研究会での報告者の役目をつとめる。で、今日の工場内の動揺に対して、次にはどういう形で更にアジテエションが与えられねばならぬか、新たに出来
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