ったゴミ/\した工場は閉鎖される。労働者はドシ/\街頭におッぽり出される。幸いに首のつながっている労働者は、ます/\科学的に、少しの無駄もなく搾《しぼ》られる。他人事ではないさ。――こういう無慈悲な摩擦《まさつ》を伴いながら、資本主義というものは大きな社会化された組織・独占の段階に進んで行くものなのだ。だから、産業の合理化というものは、どの一項を取り出してきても、結局資本主義を最後の段階まで発達させ、社会主義革命に都合のいゝ条件を作るものだけれども、又どの一項をとってみても、皆結局は「労働者」にその犠牲を強いて[#「犠牲を強いて」に傍点]行われるものなんだ。――「H・S」だって今に……なア……。
笠原は眼をまぶしく細めて、森本を見た。
――「Yのフォード」も何時迄も「フォード」で居られなくなるんでないか、と思うがな。
十二
始業のボウで、二人が跳ね上った。笠原はズボンをバタ/\と払って、事務所の方へ走って行った。
気槌《スチーム・ハンマー》のドズッ、ドズッという地ゆるぎが足裏をくすぐったく揺すった。薄暗い職場の入口で、内に入ろうとして、森本がひょいと窓からゴルフへ行く専務の姿を見て、足をよどました。給仕にステッキのサックを背負わしていた。拍子に、中から出てきた佐伯と身体を打ち当てゝしまった。
――失敬ッ!
――ひょっとこ奴《め》!
佐伯? 何んのために、こっちへやって来やがったんだ、――森本は臭い奴だと思った。
――何んだ、手前の眼カスベ[#「カスベ」に傍点]か鰈《かれい》か?
――何云ってるんだ。窓の外でも見ろ!
佐伯はチラッとそれを見ると、イヤな顔をした。
――あの格好を見れ。「昭和の花咲爺」でないか。ゴルフってあんな恰好しないと出来ないんか。
――フン、どうかな……。
あやふやな受け方をした。佐伯には痛いところだった。
――実はね、安部磯雄が今度遊説に来るんだよ。……それを機会に、市内の講演が終ってから、一時間ほど工場でもやってもらうことにしたいと思ってるんだ。これは専務も賛成なんだが……。
――主催は? ……君等が呼ぶのか?
――冗談じゃない、専務だよ。
――専務が※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
森本が薄く笑った。
――へえ、馬鹿に大胆なことをするもんだな。
――偉いもんだよ。
佐伯は森本
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