らわせば、職工の全部は「忽《たちま》ち」自分のもとに雪崩《なだれ》を打ってくるのは分りきったことだ、と。――然し、それがこんなに惨めになるとは本当だろうか※[#感嘆符疑問符、1−8−78] そして一斉の拍手! 専務は何よりこの裏切られた自分自身の気持に打ちのめされてしまった。それにもっと悪いことには、専務は問題を両方から受けていた。一方には、自分自身の地位について! これは充分に専務を気弱[#「気弱」に傍点]にさせていた。「金融資本家」に完全に牛耳られて、没落しなければならない「産業資本家」の悲哀が、彼の骨を噛んでいた。そればかりか、今年ロシアが蟹工船の漁夫供給問題の復仇として、更にカムチャツカの、優良漁区に侵出してくることは分りきっていた。
 けれども工場長が口をきった。――危い、と見てとったのだ。
 ――とにかく重大問題で、専務が全部の職工にお話ししたいことがあるんだから……それは、まずそれとして……。
 ――おッ! 一寸待ってくれ!
 森本の後から、ラッカー工場の細胞が針のような言葉を投げつけた。
 ――お、俺だちば、ばかりの力でやったか、会ば……。それば、それば!
 言葉より興奮が咽喉《のど》にきた。で、森本が次を取った。
 ――そんなわけで……一寸、貴方々の……勝手には……。
 彼は専務や工場長に、而も彼等を三尺と離れない前において、もの[#「もの」に傍点]を云うのは初めてだった。彼は赤くなって、何度もドギマギした。普段から、専務の顔さえも碌《ろく》に見れない隅ッこで、鉄屑のように働いている森本だったのだ。それに顔をつき合わせると、専務は案外な威厳を持っていた。――だがそう云われて、この「鉄屑のような」職工に、工場長は言葉をかえせなかった。
 ――まず「確答」だ!
 ――要求を承諾して貰うんだ! それからだ!
 食堂をうずめている職工のなかゝら、誰かそれを叫んだ。上長に対して、そんな云い方は、この[#「この」に傍点]工場としては全くめずらしかった。こういう風に一つに集まると、彼等は無意識のうちにその力を頼んでいた。そして彼等は全く別人のようなことを平気で云ってのけた。
 工場長とそれに森本も同時に眼をみはった。誰が何時の間に職工をこんな風に育てたのか?
 ――直ぐこゝでは無理でしょう。余裕を貰わなければなりますまい。
 初めて専務は口を開いた。この言葉使い
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