ねた。が、フト、ぎょッとした。――それは細胞の一人だった。「H・Sニュース」に漫画が多かったりすると、彼はよく糊付《のりづ》けにぺったり機械へはったりした。
 ――後にはキッと共産党がいるんだ。どうもそうだ。
 ――然しあんなものが共産党なら、共産党ッてものも極く当り前のことしか云わないもんだね。
 ――だから恐ろしいんだよ。
 彼は笑ってしまった。
 ――だから何んでもないッて云うのが本当でしょうや。
 仕事が始まってから二十分もした。――働いていた職工が後から背を小突かれた。
 ――何処ッかゝら廻ってきた。
 紙ッ切れをポケットの中にソッと入れられた。いゝことには、職長が二人位しかいないことだった。
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「工場委員会」の選挙制協議のため時間後一人残らず食堂へ集合の事。危機は迫っている。団結の力を以って我等を守ろう。
[#ここで字下げ終わり]
 ――次へ廻わしてやるんだそうだ。変な奴には廻さないそうだど。
 ――ホ! 矢張りな。
 同じ時に、それと同じ紙片が「仕事場」にも「鋳物場」にも、「ボデイ・ライン」にも、「トップ・ライン」にも、「漆塗工場《ラッカー》」にも、「釘付工場《ネーリング》」にも、「函詰部《パッキング》」にも同じ方法で廻っていた。――
 職長たちが話しながら、ゾロ/\事務所から帰ってきた。機械についていた職長がそれを見ると、周章てゝ走って行った。彼は工場の隅で立話を始めた。職工たちは仕事をしながら、それを横目でにらんだ。
 仕上場の見張りの硝子戸の中から、「グレエン」職長が周章てゝ飛び出してきた。――金剛砥《グラインダー》に金物をあてゝいた斉藤が、その直ぐ横の旋盤についていた職工から、何か紙片を受取って、それをポケットに入れた。それをひょッと見たからだった。神経が尖《と》がっていた。――皆は何が起ったか、と思った。その「渡り職」の後を一斉に右向けをしたように見た。
 ――おいッ!
 大きな手が斉藤の肩をつかんだ。然し振返った斉藤は落付ていた。
 ――何んですか?
 ゆっくり云いながら、片手は素早くポケットの紙片をもみくしゃにして、靴の底で踏みにじっていた。
 ――あ、あッ、あッ、その紙だ!
 職長がせきこんだ。
 ――紙?
 砂地の床は水でしめっていた。斉藤は靴の先きで、紙片をいじりながら、
 ――どうしたんです。
 ――
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