と吃驚《びっくり》した。
 給仕は仕事の関係で、漁夫や船員などが、とても窺《うかが》い知ることの出来ない船長や監督、工場代表などのムキ[#「ムキ」に傍点]出しの生活をよく知っていた。と同時に、漁夫達の惨《みじ》めな生活(監督は酔うと、漁夫達を「豚奴《ぶため》々々」と云っていた)も、ハッキリ対比されて知っている。公平に云って[#「公平に云って」に傍点]、上の人間はゴウマン[#「ゴウマン」に傍点]で、恐ろしいことを儲《もう》けのために「平気」で謀《たくら》んだ。漁夫や船員はそれにウマウマ[#「ウマウマ」に傍点]落ち込んで行った。――それは見ていられなかった。
 何も知らないうちはいい、給仕は何時もそう考えていた。彼は、当然どういうことが起るか――起らないではいないか、それが自分で分るように思っていた。
 二時頃だった。船長や監督等は、下手に畳んでおいたために出来たらしい、色々な折目のついた服を着て、罐詰を船員二人に持たして、発動機船で駆逐艦に出掛けて行った。甲板で蟹外しをしていた漁夫や雑夫が、手を休めずに「嫁行列」でも見るように、それを見ていた。
「何やるんだか、分ったもんでねえな」
「俺
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