、日本にだってそうないんだ。今度社長が代議士になるッて云うし、申分がないさ。――やはり、こんな風にしてもひどく[#「ひどく」に傍点]しなけア、あれだけ儲けられないんだろうな」
夜になった。
「一万箱祝」を兼ねてやることになり、酒、焼酎《しょうちゅう》、するめ、にしめ、バット、キャラメルが皆の間に配られた。
「さ、親父《おど》のどこさ来い」
雑夫が、漁夫、船員の間に、引張り凧《だこ》になった。「安坐《あぐら》さ抱いて見せてやるからな」
「危い、危い! 俺のどこさ来いてば」
それがガヤガヤしばらく続いた。
前列の方で四、五人が急に拍手した。皆も分らずに、それに続けて手をたたいた。監督が白い垂幕の前に出てきた。――腰をのばして、両手を後に廻わしながら、「諸君は」とか、「私は」とか、普段云ったことのない言葉を出したり、又|何時《いつ》もの「日本男児」だとか、「国富」だとか云い出した。大部分は聞いていなかった。こめかみと顎《あご》の骨を動かしながら、「するめ」を咬《か》んでいた。
「やめろ、やめろ!」後から怒鳴る。
「お前えなんか、ひっこめ! 弁士がいるんだ、ちアんと」
「六角棒の方が似
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