流れのうちでも、勿論|澱《よど》んだように足ぶみ[#「足ぶみ」に傍点]をするものが出来たり、別な方へ外《そ》れて行く中年の漁夫もある。然しそのどれもが、自分では何んにも気付かないうちに、そうなって行き、そして何時の間にか、ハッキリ分れ、分れになっていた。
朝だった。タラップをノロノロ上りながら、炭山《やま》から来た男が、
「とても続かねえや」と云った。
前の日は十時近くまでやって、身体は壊《こわ》れかかった機械のようにギクギクしていた。タラップを上りながら、ひょいとすると、眠っていた。後から「オイ」と声をかけられて思わず手と足を動かす。そして、足を踏み外《はず》して、のめったまま腹ん這《ば》いになった。
仕事につく前に、皆が工場に降りて行って、片隅《かたすみ》に溜《たま》った。どれも泥人形のような顔をしている。
「俺ア仕事サボるんだ。出来ねえ」――炭山《やま》だった。
皆も黙ったまま、顔を動かした。
一寸して、
「大焼き[#「大焼き」に傍点]が入るからな……」と誰か云った。
「ずるけてサボるんでねえんだ。働けねえからだよ」
炭山《やま》が袖を上膊《じょうはく》のところまで、
前へ
次へ
全140ページ中81ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング