、フト安心すると、瞬間クラクラッとした。
皆が仕舞いかけると、
「今日は九時までだ」と監督が怒鳴って歩いた。「この野郎達、仕舞いだッて云う時だけ、手廻わしを早くしやがって!」
皆は高速度写真のようにノロノロ又立ち上った。それしか気力がなくなっていた。
「いいか、此処《ここ》へは二度も、三度も出直して来れるところじゃないんだ。それに何時《いつ》だって蟹が取れるとも限ったものでもないんだ。それを一日の働きが十時間だから十三時間だからって、それでピッタリやめられたら、飛んでもないことになるんだ。――仕事の性質《たち》が異《ちが》うんだ。いいか、その代り蟹が採れない時は、お前達を勿体ない程[#「勿体ない程」に傍点]ブラブラさせておくんだ」監督は「糞壺」へ降りてきて、そんなことを云った。「露助はな、魚が何んぼ眼の前で群化《くき》てきても、時間が来れば一分も違わずに、仕事をブン投げてしまうんだ。んだから――んな心掛けだから露西亜《ロシア》の国がああなったんだ。日本男児[#「日本男児」に傍点]の断じて真似《まね》てならないことだ!」
何に云ってるんだ、ペテン野郎! そう思って聞いていないものも
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