(久し振りに!)仕事が終った。
皆が「糞壺」に降りて来た。
「元気ねえな」芝浦だった。
「こら、足ば見てけれや。ガク、ガクッて、段ば降りれなくなったで」
「気の毒だ。それでもまだ一生懸命働いてやろうッてんだから」
「誰が! ――仕方ねんだべよ」
芝浦が笑った。「殺される時も、仕方がねえか[#「仕方がねえか」に傍点]」
「…………」
「まあ、このまま行けば、お前ここ四、五日だな」
相手は拍手に、イヤな顔をして、黄色ッぽくムクンだ片方の頬《ほお》と眼蓋《まぶた》をゆがめた。そして、だまって自分の棚《たな》のところへ行くと、端へ膝《ひざ》から下の足をブラ下げて、関節を掌刀《てがたな》でたたいた。
――下で、芝浦が手を振りながら、しゃべっていた。吃《ども》りが、身体をゆすりながら、相槌《あいづち》を打った。
「……いいか、まア仮りに金持が金を出して作ったから、船があるとしてもいいさ。水夫と火夫がいなかったら動くか。蟹が海の底に何億っているさ。仮りにだ、色々な仕度《したく》をして、此処まで出掛けてくるのに、金持が金をだせたからとしてもいいさ。俺達が働かなかったら、一匹の蟹だって、金持の懐
前へ
次へ
全140ページ中120ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング