一致したし、それで皆もその通り動くようになった。――学生上りが二人程、吃《ども》りの漁夫、「威張んな」の漁夫などがそれだった。
学生が鉛筆をなめ、なめ、一晩中腹|這《ば》いになって、紙に何か書いていた。――それは学生の「発案」だった。
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発案(責任者の図)
A B C
| | |
二人の学生 ┐ ┌雑夫の方一人 国別にして、各々そのうちの餓鬼大将を一人ずつ
│ │川崎船の方二人 各川崎船に二人ずつ
吃りの漁夫 │ │水夫の方一人┐
│ │ │ 水、火夫の諸君
「威張んな」┘ └火夫の方一人┘
A――――→B――――→C→┌全部の┐
←―――― ←―――― ←└諸君 ┘
[#ここで字下げ終わり]
学生はどんなもんだいと云った。どんな事がAから起ろうが、Cから起ろうが、電気より早く、ぬかりなく「全体の問題」にすることが出来る、と威張った。それが、そして一通り決められた。――実際は、それはそう容易《たやす》くは行われなかったが。
「殺されたくないものは来れ[#「殺されたくないものは来れ」に傍点]!」 ――その学生上りの得意の宣伝語だった。毛利元就《もうりもとなり》の弓矢を折る話や、内務省かのポスターで見たことのある「綱引き」の例をもってきた。「俺達四、五人いれば、船頭の一人位海の中へタタキ落すなんか朝飯前だ。元気を出すんだ」
「一人と一人じゃ駄目だ。危い。だが、あっちは船長から何からを皆んな入れて十人にならない。ところがこっちは四百人に近い。四百人が一緒になれば、もうこっちのものだ。十人に四百人! 相撲になるなら、やってみろ、だ」そして最後に「殺されたくないものは来れ[#「殺されたくないものは来れ」に傍点]!」だった。――どんな「ボンクラ」でも「飲んだくれ」でも、自分達が半殺しにされるような生活をさせられていることは分っていたし、(現に、眼の前で殺されてしまった仲間のいることも分っている)それに、苦しまぎれにやったチョコチョコした「サボ」が案外効き目があったので学生上りや吃りのいうことも、よく聞き入れられた。
一週間程前の大嵐で、発動機船がスクリュウを毀《こわ》してしまった。それで修繕のために、雑夫長が下船して、四、五
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