警察に犧牲になつて行く必要が起きた。渡が木村に頼んで、色々注意を話してきかせた。
「少しなぐられるかも知らないけれども、我慢してくれよ。」と云つた。
「嫌だ!」
一口でさう云ひ切つた。
そんな答をちつとも豫期してゐなかつた渡が「えゝ?」と反射的に云つたきり、かへつて默つたまゝ木村の顏を見た。[#「見た。」は底本では「見た」]
「俺アそつたら事して、一日でも二日でも警察さ引ツ張られてみれ、飯食えなくなるよ。嫌だ!」
「君は俺達の運動といふ事が分らないんだな。」
「お前え達幹部みたいに、警察さ引ツ張られて行けば、それだけ名前が出て偉くなつたり、名譽になつたりすんのと違んだ。」
渡は息をグツとのんだまゝ、すぐ何か云へず、默つた。そこにゐた龍吉は「これア惡い空氣だ。」と思つた。組合の幹部と平組合員が「こんな事で」にらみ合つてゐては困る、と思つた。
「今のところ、まア別人に行つて貰ふことにしてもいゝさ。」
龍吉は是非さう云はなければならなかつた。――この木村にとつて、今度の事は、だから、「手をひく」いゝ動機だつた。こゝから出たら、さつぱりとやめやうと思つてゐた。さう決めてゐた。
「意久地
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