れば」は底本では「なれば」]知らずやあるらむ」。
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かくて宇多の松原を行き過ぐ。その松の數幾そばく、幾千年へたりと知らず。もとごとに浪うちよせ枝ごとに鶴ぞ飛びかふ。おもしろしと見るに堪へずして船人のよめる歌、
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「見渡せば松のうれごとにすむ鶴は千代のどちとぞ思ふべらなる」
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とや。この歌は所を見るにえまさらず。かくあるを見つゝ漕ぎ行くまにまに、山も海もみなくれ、夜更けて、西ひんがしも見えずして、てけのこと※[#「楫+戈」、第3水準1−86−21]取の心にまかせつ。男もならはねば(二字ぬはイ)いとも心細し。まして女は船底に頭をつきあてゝねをのみぞなく。かく思へば舟子※[#「楫+戈」、第3水準1−86−21]取は船歌うたひて何とも思へらず。そのうたふうたは、
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「春の野にてぞねをばなく。わが薄にて手をきるきる、つんだる菜を、親やまほるらむ、姑やくふらむ。かへらや。よんべのうなゐもがな。ぜにこはむ。そらごとをして、おぎのりわざをして、ぜにももてこずおのれだにこず」。
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