しまって、その狼を自分の手でなくする工夫をした。彼はある日、狩の帰りに射殺した鹿をずたずたに切って、その肉へ矢に付ける毒を塗り、二人の女が往来する路へ置いた。
翌日になって平生《いつも》のように猟に出て往った章は、昨日の鹿の肉のことを思いだしたので、帰りにその方へ廻ってみようと思ったが、その日は後ろの山へ入っていたので廻らずに帰ってきた。
家へ入ってみると家には何人もいない。時どき叔母の処へ往って遅くなることがあるので、今日もそれだと思って待っていたが、二人は夜になっても帰ってこなかった。
章はしかたなしに一人で食事をすまして、もしか、もしかと思って、睡らずに待ったが、朝になっても帰ってこなかった。今までこんなことはなかったが、何か叔母の処に変ったことでもあって帰らないだろうかと思った。章は朝食をすますと、往くともなしに前方《むこう》の山の方へ谷をくだって往った。
谷の中の岩の並んだ処へ来た。そこは毒を塗った鹿の肉をたくさん置いた処であった。章はふとその岩の間へ眼をやった。見覚えのある着物を着た二人の姿が横たわっていた。章は驚いて飛んで往った。それは着物を着た二疋の狼であった。
底本:「中国の怪談(一)」河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
1970(昭和45)年11月30日発行
入力:Hiroshi_O
校正:門田裕志、小林繁雄
2003年8月3日作成
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