非常に悲しんで、一いちそれを拾って笥の中へ入れて蓋をして、そしていった。
「私はただこの子供しかありません。この子供は毎日私について来て手助けをしてくれておりましたが、とうとうこんなことになりました。これからいって※[#「やまいだれ+(夾/土)」、第3水準1−88−54]《うず》めましょう。」
 そこで官人の前に脆《ひざまず》いていった。
「桃のために子供を殺しました。もし、私を憐れんでくださるなら、葬式を助けてください。どうにかしてこの御恩は返します。」
 傍に坐っていた者は同情して、それぞれ金を出してくれた。彼の男はそれを腰につけてから、笥《はこ》を扣《たた》いていった。
「八八、出てお礼をいわないかい。何をぐずぐずしているのだ。」
 忽ち髪をもしゃもしゃにした子供の首が笥《はこ》の蓋《ふた》をもちあげて出て来て、北の方を向いてお辞儀をした。それは彼の子供であった。それは不思議な術であったから、私は今にそれを覚えているが、後に聞くと白蓮教《びゃくれんきょう》の者はこの術をするということであったが、ついすると彼の男は、その苗裔《びょうえい》かも解らない。



底本:「聊斎志異」明徳出版社
   1997(平成9)年4月30日初版発行
底本の親本:「支那文学大観 第十二巻(聊斎志異)」支那文学大観刊行会
   1926(大正15)年3月発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏
2007年8月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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