を静かな所に埋めさせて帰って往った。
朱の細君はその後で眼を醒ましたが、頸のまわりがすこし麻れて、顔がこわばったような気がするので手をやってみた。するとその手に血がついたのでひどく駭いて、婢《じょちゅう》[#ルビの「じょちゅう」は底本では「ぢょちゅう」]を呼んで盥《たらい》に水を汲ました[#「汲ました」は底本では「汲みました」]。婢は細君の顔が血みどろになっているので驚いて倒れそうにした。やがて細君が顔を洗ってみると盥の水が真赤になった。洗った後で細君が首を挙げると、顔の相好が変っているので婢はますます駭いた。細君は鏡を取って顔を映してみた。見も知らぬ人の顔になっているので駭いてしまった。そこへ朱が入ってきて理由を話した。細君はそれによって顔を映しなおして精《くわ》しく見た。それは眉の長い笑靨《えくぼ》のある絵に画いたような美人の顔であった。領《えり》をすかして験べてみると、紅い糸のような筋がぐるりに著いて、上と下との肉の色がはっきりと違っていた。
その時|呉侍御《ごじぎょ》という者があって、美しい女《むすめ》を持っていたが、二度も許婚《いいなずけ》をして結婚しないうちに夫になる人
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