ゃその方がいいが」
「では持とうじゃありませんか」
「そうだね、持ってもいいな、じゃ、暇をくれるかくれないか、明日旦那に願ってみよう」
許宣は翌日李克用に相談した。李克用は自分の弱点があるうえに奇怪な目に逢っているので、許宣の言うことに反対しなかった。そこで許宣は白娘子と二人で、碼頭の傍へ手ごろの家を借りて薬舗をはじめた。許宣ははじめて一家の主人となっておちつくことができた。
七月の七日になった。その日は英烈竜王の生日《えんにち》であった。許宣は金山寺へ焼香に往きたいと思って、再三白娘子に同行を勧めたが白娘子は往かなかった。
「あなた一人で往ってらっしゃい、しかし、方丈へ往ってはいけないのですよ、あすこには、坊主が説経してますから、きっと布施を取られますよ、いいですか、きっと方丈へ往ってはいけないのですよ」
許宣は独りで往くことにして、舟を雇い、上流約一里の処にある金山寺の島山へ往った。揚子江の赤濁りのした流れを上下して、金山寺へ往来する参詣人の舟が水鳥の群のように浮んでいた。京口瓜州一水《きょうこうかしゅういっすい》の間、前岸瓜州《ぜんがんかしゅう》の楊柳は青々として見えた。
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