た。家にいた王主人は、許宣が捕卒に引き立てられて入ってきたのを見てびっくりした。
「どうしたというのです」
「あの女にひどい目に逢わされたのです、今家におりましょうか」
 許宣は声を顫《ふる》わして怒った。
「奥様は、あなたの帰りが遅いと言って、婢さんと二人で、承天寺の方へ捜しに往ったのですよ」
 捕卒は白娘子の代りに王主人を縛って許宣といっしょに府庁へ伴れて往った。堂の上には府尹が捕卒の帰るのを待っていた。府尹は白娘子を捕えてきた後に裁判をくだすことにした。府尹の傍には周将仕がきてその将来《なりゆき》を見ていた。
 そこへ周将仕の家の者がやってきた。それは盗まれたと思っていた金銀珠玉衣服の類が、庫の空箱の中から出てきたという知らせであった。周将仕はあわただしく家へ帰って往ったが、家の者が言ったように盗まれたと思っていたものはみなあった。ただ扇子と墜児はなかったが、そんな品物は同じ品物が多いので、そればかりでは許宣を盗賊とすることができなかった。周将仕は再び府庁へ往ってそのことを言ったので、許宣は許されることになったが、許宣を置く地方が悪いということになって、鎮江の方へ配を改められた。
 そこで許宣は鎮江へ送られることになったところへ、折よく杭州から邵大尉の命で李幕事が蘇州へ来た。李幕事は王主人の家へ往って許宣が配を改められたことを聞くと、鎮江の親類へ手簡を書いて、それを許宣に渡した。鎮江の親類とは、親子橋の下に薬舗を開いている李克用《りこくよう》という人の許であった。
 許宣は護送人といっしょに鎮江へ往って、李克用の家へ寄った。李克用は親類の手簡を見て、護送人に飯を喫《く》わし、それからいっしょに府庁へ往って、それぞれ金を使って手続をすまし、許宣を家へ伴れてきた。
 許宣は李克用の家へおちつくことができた。心がおちついてくるとともに彼は恐ろしい妖婦に纏わられている自分の不幸を思いだして、悲しみも憤りもした。李克用は許宣が杭州で薬舗の主管《ばんとう》をしていたことを知ったので、仕事をさしてみると、することがしっかりしていて、あぶなかしいと思うことがなかった。
 そこで主管にして使うことにしたが、他の店員に妬《ねた》まれてもいけないと思ったので、許宣に金をやって店の者を河の流れに臨んだ酒肆《さかや》へ呼ばした。
 やがて酒を飲み飯を喫って皆が帰って往ったので、許宣は後
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