見えていたが、その中に※[#「さんずい+徑のつくり」、第3水準1−86−75]川の畔で見たかの女の姿があった。
「※[#「さんずい+徑のつくり」、第3水準1−86−75]川の囚人が帰ってきた」
 洞庭君は嬉しそうに言った。女達の姿は紫の霞に隠れたり見えたりしながら宮中の方へ流れるように行った。
 洞庭君はちょと席をはずして宮中の方へ引込んで行ったが、すぐ出てきて毅の相手になった。紫の袍を来て青玉を持ったいかつい顔の貴人が、いつの間にか洞庭君の傍へ来て立った。洞庭君は毅に言った。
「これがわしの弟の銭塘じゃ」
 毅は起って行って拝《おじぎ》をした。銭塘君も毅に礼を返した。
「先生がなかったなら、女姪《めい》は※[#「さんずい+徑のつくり」、第3水準1−86−75]陵《けいりょう》の土となるところであった」
 銭塘君は傲然として言ってから、今度は洞庭君の方を見た。
「さっきここを出てから、巳《み》の時に※[#「さんずい+徑のつくり」、第3水準1−86−75]陵へ行って、午《うま》の時に戦って、帰りに九天へ行って、上帝にその訳を訴えてきました」
「どれくらい殺した」
「六十万」
「稼《か》を傷《そこな》うたか」
「八百里傷いました」
「馬鹿者をどうした」
「喰ってしまいました」
「馬鹿者は憎むべきだが、お前もあまりひどいことをやったものだ」
 毅はその晩凝光殿へ泊った。翌日になると洞庭君は凝碧宮に饗宴を設けて御馳走をした。その庭には広楽を張ってあって、銭塘の破陣楽《はじんがく》をはじめ様ざまの音楽を奏した。
 翌日洞庭君は新たに清光閣に盛宴を張った。銭塘君は酒に酔って毅に言った。
「わしは先生に言いたいことがある、ぜひ女姪《めい》を家内にして貰いたい」
 毅は銭塘君の威圧的な言葉が厭であった。
「私は王の剛快明直なやり方は、非常に感心しておりますが、そういうような結婚は、厭でございます、これは大王の御判断を仰ぎたいと思います」
 銭塘君は自分の言ったことに気が注《つ》いた。
「これはわしが悪かった、どうかこらえてくれ」
 毅と銭塘君はそのときから知心の友となった。翌日になって毅が帰ることになると、洞庭夫人が潜景殿《せんけいでん》で送別の宴を張った。そこへは宮中の者が男も女も皆出ることを許された。
 夫人の傍にはいつの間にか※[#「さんずい+徑のつくり」、第3水準1−86−
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