君に従うて、天帝の許へ朝した時、聖者達が数年の後に戦乱が起って、巨河《きょか》の南、長江の北で、人民が三十余万殺戮せられるということを話しあっていたが、この時になっては、自ら善を積み、仁を累《かさ》ね、忠孝純至の者でないかぎり、とても免れることはできない、まして普通一般の人民では天の佑《たすけ》が寡《すくな》いから、この塗炭《とたん》に当ることがどうしてできよう、しかし、これは運数が已に定まっているから、これを逃れることはできないが、諸君はどう思う」
 判官達は顔を蹙《しか》めて、顔を見合わしたが、
「それは吾々の知ったことじゃない」
「それは判らない」
「吾々はそんなことは知らない」
 などと口々に言って外へ出たが、どこかへ往ってしまった。
 友仁は案の下から匍匐《ほふく》して出て、拝《おじぎ》をしてから言った。
「私は宵からまいりまして、自分の将来のことをお願いしておきましたが、私は将来どういうようになりましょう」
 発跡司の判官はじっと友仁の顔を見ていたが、やがて側にいた小役人を呼んで帳簿を持ってこさして、それを自分で開け、ちょっと考えてから言った。
「君は大いに福禄《ふくろく》がくる、もうそう長いこと貧乏しなくてもいい、これから日に日によくなってくる」
 友仁は喜んだ。しかし、もすこしはっきりしたことが聞きたかった。
「お言葉をかえしてはすみませんが、日に日によくなると申しますと、どういうようによくなりましょう、もすこし精《くわ》しいことをお聞かせくださいますことはできますまいか」
「そうか、では、精《くわ》しいことを知らしてやろう」
 主神は朱筆を持って傍の紙へ書いて、それをさし出したので、友仁は恐る恐る受け取った。それには大字で『日に偶うて康《やす》く、月に偶うて発し、雲に遇うて衰え、雷に遇うて没す』と書いてあった。友仁はそれもはっきりとは判らないが、あまり聞くもわるいと思ったので、それを懐へ入れて前をさがり、廟門の外へ出た。
 外はもう夜が明けていた。友仁はさっきの書付をもう一度見ようと思って、懐に手をやったがどうしたのかなくなっていた。

 友仁は家へ帰って、妻子に発跡司の判官の讖言《しんげん》のことを話して喜んでいた。
 間もなく都の豪家の傅日英《ふじつえい》という者が、子弟を訓《おし》えてくれと言って頼みに来た。そこで友仁は日英の家へ移って、月俸
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