者は縄をかけられた。
その翌日、比江山の妻子六人は、比江の磧へ引きだされた。六人の成敗せられることを聞いて、附近の者が集まって来て、それを執り囲んで見物していた。
縄をかけられた六人の者は、磧の沙の上に坐らされていた。小さな末の女の子は母の方を見て泣き続けていた。刀を持った首斬の男はその女の子の傍へ往った。
その時であった。見物人を押分けて長福寺の住職が出て来た。住職は狂人《きちがい》のような眼をして、見物人の方を見返った。
「このうちに植田の者はおらんか、なんと云う人非人じゃ、こうして成敗をせられようとしておる者が、可哀そうじゃないか、この怨みはどうしても忘れんぞ」
住職はこう云って腰へ手をやった。その腰には一本の刀があった。住職はその刀を抜いて立ったなりに腹へ突きさした。群集は恐れてわっと声を立てて後へ退いた。住職は刀を引き廻した。首斬の刀はそれと同時に女の子の首に往った。
住職はじめ比江山妻子の死骸は、その日に新改村へ葬られた。その夜からその附近に奇怪なことがありはじめた。火の玉も飛んだ。路で頓死する者があったり、発狂する者があり、病気になる者があった。わけて植田の者にその奇怪が多かった。
「七人御先、七人御先」
人びとはこう云って恐れた。最近になっても植田の者はその七人御先の墓の傍へ近寄ると、きっと奇怪なことが起った。明治になってからも二人の壮《わか》い男が、其処へ草刈りに往ったことがあるが、一人の男は、
「七人御先の墓地へ入らんようにしよう、植田の者に祟りがあると云うから」
と云うと、一人の男は笑って、
「そんなことは昔の迷信よ、今時そんなことがあってたまるものか」
と、うち消して二人でその墓地へ入って、草を刈っていると、黒い蛇が棹立ちになって二人の前へ出て来た。二人は鎌も何も捨てて置いて逃げだした。蛇は二三丁も二人を追っかけたがやっと見えなくなった。
私たちが少年の時に恐れた七人御先は、この新改の七人御先であるように思われる。
底本:「日本の怪談」河出文庫、河出書房新社
1985(昭和60)年12月4日初版発行
底本の親本:「日本怪談全集」桃源社
1970(昭和45)年初版発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:大野晋
校正:松永正敏
2001年2月23日公開
2001年2月24日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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