者《つかい》じゃ、左京を神にして祭るとなれば、喜んで受けられる」
木塚の親実の墓は、結構を新らしくして社として祭りだした。木塚明神と云うのがそれである。八人御先の怪異は、それといっしょにすくなくなったが、それでも時どきその御先に往き逢ったと云って、病気になったり、頓死する者があったりするので皆それを非常に恐れた。
比江山親興が、元親の検使に詰腹を切らされた時のことであった。親興は一人の家来に耳打をして、それを比江村の己《じぶん》の城へやった。それは妻子を落すためであった。親興には五人の小供があった。
親興の妻は家来の報知《しらせ》によって、五人の小供を伴れ、その夜、新改村の長福寺へ忍んで往った。長福寺の住職は比江山の恩顧を受けている者であった。住職は六人の者を離屋《はなれ》に隠して、何人《だれ》にも知らせないようにと、飯時には握飯を拵えて己《じぶん》でそれを持って往った。
「拙僧の命に代えても、奥様とお子様達は、おかくまい申します」
住職はこう云って六人の者を慰めていた。一方元親の方では、親興の妻子を失うつもりで、日吉の城へ討手を向けたところが、もう妻子は逃亡した後であったから、附近へ人を出して捜索さした。
「親興の妻子の居処を知らして来た者には、褒美の金をやる」
という布告をだした。六人の者が田路を通って長福寺へ入って往くところを、植田の百姓達が見ていた。金に眼のくれた百姓達は訴人となって出た。
数十人の討手は不意に長福寺へ来た。
「比江山の女房小供を渡せ」
住職は驚いたが欺せるものなら欺そうと思った。
「めっそうもない、比江山の女房小供が隠れておるなどとは、存じもよらんことでござる」
「云うな、比江山の女房小供六人が、此処へ入ったところを、植田の者が見ていて、訴人に出たのじゃ、それでもおらんと云うか」
討手の頭《かしら》は住職を叱りつけた。
「でもそんな者はおりません」
「争いは無益じゃ、家探しして捕えめされ」
討手の者は頭の声と共に、ばらばらと寺の中へ駈けあがった。住職はそのまま離屋の方へ走って往って、六人の者を逃がそうとした。三四人の討手は住職を追って来て、彼が離屋の縁側へあがろうとするのを押えて捩伏せた。
「奥様も御子様達も、早く、早く、討手が来たから、早く、早く」
住職は捩伏せられながら叫んだ。討手の者は皆其処へ集まって来た。六人の
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