。
武は大声をあげて叫びかつ罵ったが、邑宰は何も聞かないふうで相手にならなかった。
武はとうとう叔父の尸を舁《かつ》いで[#「舁《かつ》いで」は底本では「舁《かつ》いて」]帰って来たが、哀みと憤りで心が乱れてそれに対する謀《はかりごと》がまとまらなかった。武はそこで七郎から謀を得ようと思ったが、七郎はさらに見舞にも来なかった。武はこれまで七郎を待つに薄くはなかったが、なんでにわかに知らない人のようにするだろうと思った。しかし、林児を殺してくれた人のことを思うと、どうしても七郎より他にないので、七郎と謀《はか》らなければならないと思って、そこで人をその家へやった。七郎の家は戸が締ってひっそりとなっていた。隣の人に訊いても解らなかった。
ある日、御史某の弟は村役所へ来て邑宰と相談していた。それは朝で、薪と水とを樵人《そま》が持って来る時刻であった。不意に一人の樵人が水を担《かつ》いで来たが、その担いだ物を置くなり刀を抽《ぬ》いて某に飛びかかった。某はあわてて手で刀をつかもうとした。刀はそれで腕を切り落した。樵人の次の刀は始めて某の首を斬った。邑宰は驚いて逃げていった。樵人は臂《ひじ》を張り肩を怒らして四辺《あたり》を見まわした。諸役人は急に門を締《し》めて杖を持ってさわぎだした。樵人はそこで自分で頸《くび》を突いて死んだ。皆がいり乱れて集まって来て見た。中に識っている者があって樵夫は田七郎だといった。邑宰は胸の鼓動が収まったので、始めて出て七郎を験《しら》べた。七郎は血の中に倒れていたが手にはまだ刀を握っていた。邑宰は足を止めて精しく見ていた。と、七郎の尸《しがい》が不意に起きあがって、邑宰の首を斬ったが、それが終るとまた※[#「足へん+倍のつくり」、第3水準1−92−37]《たお》れた。
捕卒が七郎の母親をつかまえにいった。いってみると逃げうせて数日経っていた。武は七郎の死んだことを聞いて、かけつけて泣き悲しんだ。皆武が七郎にさしたことだといった。武はありたけの財産を以て当路の大官に賄賂を送って、はじめて免がれることができた。七郎の尸は三十日も野に棄てて、鳥や犬がそれを看視していた。武はそれを取って厚く葬った。
七郎の子は登《とう》に漂泊《ひょうはく》していって、姓を※[#「にんべん+冬」、第3水準1−14−17]《とう》と変えていたが、兵卒から身を起し、軍
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