声を聞くと家の中へ飛び込んで来た。そこには神楽の衣裳を着た二人の男が、俯向きになって血を吐いて死んでいた。その傍には赤鬼と青鬼の面もあった。
 血を吐いて死んでいた者は、その附近に出没する博徒であった。二人は老婆から金を騙取する目的で、村の鎮守の神庫を破って、其処から神楽の装束を持ち出したものであった。そして、その二人を殺した餅も、やはり金に眼をつけた村の悪漢の所為《せい》であったが、その悪漢も日ならず村はずれの松並木の下で磔殺《たくさつ》せられた。
 老婆はその夜のうちに孫婿の許へ引移った。



底本:「日本の怪談(二)」河出文庫、河出書房新社
   1986(昭和61)年12月4日初版発行
底本の親本:「日本怪談全集」桃源社
   1970(昭和45)年初版発行
※「私はまた何人《だれ》かと」「庖厨《かって》の庭から入り」は、底本では「私はまだ何人《だれ》かと」「疱厨《かって》の庭から入り」ですが、親本を参照して直しました。
入力:Hiroshi_O
校正:門田裕志、小林繁雄
2003年7月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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