金が出来るのか、他とちがって地獄から来た者じゃ、べんべんと長くは待たれない、すぐ出来るなら持って往ってやっても好い」
 と、青鬼が云った。老婆はもう涙を滴して口をもぐもぐさしていた。
「できます、できます、手許にはないが、親類にあずけてありますから、じき執って来ます、どうぞちょっと待ってくだされ」
「すぐ執って来るなら待ってやっても好いが、遅くはないだろうな」
 と、青鬼が念を押した。老婆は気がうわずったようになっていた。
「ど、ど、して、遅くなりますものか、小半時もかかりません、どうぞ、ちょっと待ってくだされ、お爺さんがいとしい」
「しかし婆さん、俺達は地獄の使じゃ、こんなことを他の人間に話したりすると、俺達も此処にこうしていられん、そんなことは云わずに、金を持って来んといかんぜ」
 と、赤鬼が云った。老婆は話の中から頷いていた。
「それは、もう、そんなことをなにしに申しましょう、黙って執って来ますから、どうぞ待ってくだされ」
「そんなら好い、待ってやる」
 と、青鬼が云うと、老婆は急いで表の方へ出て往った。青鬼と赤鬼はその後を見送って、耳を澄ますようにしていた。
 老婆の雨戸を締め
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