てください」
「いいとも、この旅館の東側を掘ればいいのですね」
「塚はありませんが、確かに棺がその下にありますから掘ってください」
女はそのままそそくさと出て往った。王はその後で鍬を持って外へ出た。時刻は判らないが江の方に傾いた月がぼんやりした光を投げていた。王はその月の下を旅館の東側へ往った。草の枯れかかったちょっと土の盛りあがった処があった。王はこのあたりが塚らしいと思ったので鍬を入れた。
数尺の下に朽ちかかった棺があった。王はまわりの土をよくかき除けてから腐りかけたその棺の蓋を取った。中には生きたようになって横たわっている若い女の死体があった。王はそれを抱きあげて室の中へ入り、自分の着替を着せて、それを負うて水際へ出、停泊している船を雇うて出発した。
南風が急に吹き起ったので、船はすぐ秦郵へ往った。王は女の死体を負うて家に帰った。兄も兄嫁も訳を聞いて驚いたが、正面からそれに反対しなかった。
三日すると女は果して蘇生した。そして七日ばかりの後に歩くようになったが、まだ十足とは歩けなかった。しかし、間もなく体の肉も増し顔色も好くなって普通の人になった。
底本:「中国の怪談(二)」河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年8月4日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
1970(昭和45)年発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2004年11月3日作成
青空文庫作成ファイル:
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