村の怪談
田中貢太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)某《たれ》さんは、

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)早速|隻手《かたて》を突きだして、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)黒い※[#「※」は「女へん+朱」、247−8]《きれい》な
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 私の郷里で女や小供を恐れさすものは、狸としばてんと云う怪物であった。
「某《たれ》さんは、昨夜《ゆうべ》、狸に化されて家へよう帰らずに、某《ある》所をぐるぐると歩いていた」
「某さんは、狸に化されて、朝まで某処に坐っていた」
「某さんは、某さんの処へ寄って、茶を飲まして貰うて、やっと正気になって帰った」
 などと狸に化されて、朝まで墓地を歩いていた人の話とか、己《じぶん》の家の方へ帰っていたと思っていたものが、反対に隣村の方へ往って、其処の渡船《わたし》場へ出てやっと気が注《つ》いたと云うような話は平常《いつも》のことであった。しばてんの話も、それといっしょによく聞かされた。しばてんは小供の姿をしていた。それは親類の許
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