った。それをだんだん釜の中に入れて烈火で鎔《と》かし、鬼は数疋の仲間に、杓をもってそれを曾の口に灌《そそ》がした。頤《おとがい》を流れると皮膚が臭い匂いをして裂け、喉に入れると臓腑が沸きたった。曾は平生その金のすくないのを患《うれ》えていたが、この時にはその金の多いのを患えたのであろう。
 半日でそれが尽きた。王は曾を送って甘州へ往って女にした。五足六足往くと、架《たな》の上に鉄の梁があった。そのまわりは数尺であったが、それには一つの大きな輪を繋いであった。その大きさは幾百|由旬《ゆじゅん》ということが解らなかった。それには燈《ほのお》があって五色のあやをつくり、その光は空間を照らしていた。鬼は曾を鞭で敲いてその輪に登らした。曾はしかたなしにそれに登った。と、輪は足に随ってまわって、傾いて堕ちたような気がすると共に、体が涼しくなった。眸《ひとみ》を開けてみると自分はもう嬰児《あかんぼ》になっているうえに、しかも女になっていた。両親はと見ると綿の出た破れた衣服《きもの》を着ていたが、そこは土間の中で、瓢《ひさご》と杖があるのみであった。曾は心で、自分は乞食の子であるということを知った。
 曾はそれから毎日乞食の子に随いて、物をもらいに出かけて往ったが、いつも腹が空いていて腹一ぱいに物を喫《く》うことができなかった。そして破れた衣服を着て、骨を刺すような風にいつも吹かれていた。
 十四歳になって両親は顧秀才《こしゅうさい》の所へ売って妾にした。衣食はそこでほぼ足るようになったが、本妻が気があらくて、毎日その鞭の下で為事《しごと》をした。本妻は鉄を赤く焼いてからその乳のあたりに烙《やきばん》をしたが、しあわせなことには秀才は心がやさしくて可愛がってくれたので、やや自分で慰めることができた。
 東隣に悪少年があって、ある夜垣を踰《こ》えて入ってきた。そこで自分のことを考えて、自分は前世で罪を犯して地獄の責め苦を被《こうむ》っているから、今またこんなことをしてはならないと思ったので、大声をあげて人を呼んだ。秀才と本妻が起きたので、悪少年はやっと逃げて往った。
 それから間もない時のことである。ある夜秀才は曾を自分の室《へや》へ泊めた。二人の話がはずんできたので、曾は自分の身のうえのことを訴えていると、不意に大声がして室の戸を荒あらしく開け、二人の盗賊が刃を持って入ってきて、と
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