うろう》、油利撻《ゆりたつ》、青糸額《せいしがく》などいう有名な促織とそれぞれ闘わしたが、その右に出る者がなかった。そして琴の音色を聞くたびにその調子に従って舞い踊ったので、ますます不思議な虫とせられた。天子は大いに悦ばれて、詔《みことのり》をくだして撫軍に名馬と衣緞《いどん》を賜わった。撫軍はそのよって来たる所を忘れなかった。間もなく邑宰は成の献上した虫のすぐれて不思議なことを聞いて悦び、成の役をゆるして再び教官にして、邑の学校に入れた。
後一年あまりして成の子供の精神が旧《もと》のようになったが、自分で、
「私は促織になってすばしこく闘って、捷《か》って今やっと生きかえった。」
といった。撫軍もまた成に手厚い贈物をしたので、数年にならないうちに田が百頃、御殿のような第宅《ていたく》、牛馬羊の家畜も千疋位ずつできた。で、他出する際には衣服や乗物が旧家の人のようであった。
底本:「聊斎志異」明徳出版社
1997(平成9)年4月30日初版発行
底本の親本:「支那文学大観 第十二巻(聊斎志異)」支那文学大観刊行会
1926(大正15)年3月発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏
2007年8月12日作成
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