督促した。成はその期限を十日あまりも遅らしたので、その罰で百杖|敲《たた》かれて、両股の間が膿《う》みただれ、もういって虫を捉えることもできなくなった。
 成は牀《ねだい》の上に身を悶えて、ただ自殺したいとばかり思っていた。その時村へ一人のせむしの巫《みこ》が来て、神を祭って卜《うらない》をした。成の細君は金を持って巫の所へ成の身の上のことを訊《き》きにいった。そこには紅女や老婆が門口を塞《ふさ》ぐように集まっていた。成の細君もその舎《いえ》へ入っていった。そこには密室があって簾《すだれ》を垂れ、簾の外に香几《こうづくえ》がかまえてあった。身の上のことを訊《き》く者は、香を鼎《こうろ》に焚《た》いて再拝した。巫は傍から空間を見つめて代って祝《いの》った。その祝る唇《くちびる》が閉じたり開いたりしているが何をいっているか解らなかった。身の上のことを訊こうとしている者は、それぞれ体をすくめるように立って聴いていた。と、暫くして簾の内から一枚の紙を投げだした。それにはその人の思うことをいってあったが、すこしもちがうということがなかった。成の細君は前の人がしたように銭を案《つくえ》の上に置いて、香を焚いて拝《おが》んだ。物をたべる位の間をおいて、簾が動いて紙きれが飛んで来た。拾ってみると字でなくて絵を画いてあった。それは殿閣の絵であったが寺に似ていた。その建物の後に小さな山があって、その下に不思議な形をした石があったが、そこには棘《いばら》が茂って、青麻頭《せいまとう》といわれている促織がかくれ、傍に一疋の蟆《がま》が今にも躍りあがろうとしているようにしていた。細君はそれを展《ひろ》げて見ても意味を曉《さと》ることができなかったが、しかし促織が見えたので、胸の中に思っていることとぴったり合ったように思った。細君《さいくん》は喜んで帰って成に見せた。成はくりかえしくりかえし見て、これは俺に虫を捉《とら》える所を教えてくれていないともかぎらないと思って、精《くわ》しく画《え》の模様を見た。それは村の東にある大仏閣に似ていた。そこで強《し》いて起きて杖にすがって出かけていって、画に従って寺の後にいった。そこに小山のように盛りあがった古墳があって樹木が茂っていた。成はその古墳についていった。そこに一つの石があって画の模様とすこしも変っていなかった。そこで草の中へ入って虫の鳴声はしな
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