類を出して前へ置いた。
「あなた達は、神通力がありながら、何故こんな者どもに住居を取られたのです」
李生は不審をした。
「それは、私達は五百歳でございますが、この猿は、八百歳でございましたから、とても敵《かな》いません、しかし、この猿も天の咎を受ける時がきましたから、あなたに殺されました、天の咎がないと、とても、あなたの手にかかる者ではありません」
李生はその老人達に路を訊いて帰ろうと思った。
「お礼などはいらない、その代り、帰る路を教えておくれ」
「それは、訳のないことでございます、眼をおつむりになるがよろしゅうございます」
李生と三人の女は、老人の言葉に従って眼をつむった。恐ろしい風の音と雨の音が聞えた。そして、その声が止んだので眼を開けた。自分達の立っている前を一匹の大きな白鼠が数疋の鼠を連れて歩いていた。李生達はその白鼠を見ていた。
鼠は見付の丘へ往って横穴を掘りはじめた。窓のような穴がすぐ開いた。李生達はその穴の処へ往った。穴の外には別の世界があった。李生達はその穴を抜けて往った。そこには見覚えのある山路があった。
李生は銭家へ女を送って往った。銭翁は大いに喜んで李生を婿にした。他の二人の女もいっしょにいたいと言いだしたので、李生はそれも置くことにした。
昨日まで無一物の旅の青年は、一度に三婦人を娶って富貴の人となった。李生はその後思いだして穴の出口のあった処へ往ってみたが、草木が茂っていて判らなかった。
底本:「中国の怪談(一)」河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
1970(昭和45)年11月30日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:Hiroshi_O
校正:門田裕志、小林繁雄
2003年8月3日作成
青空文庫作成ファイル:
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