いはずもがな、お定さへも此時は妙に淋しく名残惜しくなつて、密々《こそこそ》と其事を語り合つてゐた。此日は二人共廂髪に結つてゐたが、お定の頭にはリボンが無かつた。忠太は、棚の上の荷物を気にして、時々其を見上げ/\しながら、物珍らし相に乗合の人々を、しげ/\見比べてゐたが、一時間許り経つと、少し身体を曲《かが》めて、
『尻《けつ》ア痛くなつて来た。』と呟いた。『汝《うな》ア痛くねえが?』
『痛くねえす。』とお定は囁いたが、それでも忠太がまだ何か話欲しさうに曲《かが》んでるので、
『家の方でヤ玉菜だの何ア大きくなつたべなす。』
『大きくなつたどもせえ。』と言つた忠太の声が大きかつたので、周囲《あたり》の人は皆此方を見る。
『汝《うな》ア共《ど》ア逃げでがら、まだ二十日にも成んめえな。』
お定は顔を赤くしてチラと周囲を見たが、その儘返事もせず俯《うつむ》いて了つた。お八重は顔を蹙めて厭々《いまいま》し気に忠太を横目で見てゐた。
十時頃になると、車中の人は大抵こくり/\と居睡を始めた。忠太は思ふ様腹を前に出して、グツと背後《うしろ》に凭れながら、口を開けて、時々鼾をかいてゐる。お八重は身体
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