は、二人が驚く許り奢《おご》つたものであつた。無論これは、村の人達に伝へて貰ひたい許りに、少許《すこし》は無理な事までして外見《みえ》を飾つたのであるが。
其夜は、裏二階の六畳に忠太とお八重お定の三人枕を並べて寝せられたが、三人限になると、お八重は直ぐ忠太の膝をつねりながら、
『何《なん》しや来たす此|人《しと》ア。』と言つて、執念《しふね》くも自分等の新運命を頓挫させた罪を詰るのであつたが、晩酌に陶然とした忠太は、間もなく高い鼾《いびき》をかいて、太平の眠に入つて了つた。するとお八重は、お定の穏《おとな》しくしてるのを捉まへて、自分の行つた横山様が、何とかいふ学校の先生をして、四十円も月給をとる学士様な事や、其奥様の着てゐた衣服《きもの》の事、自分を大層可愛がつてくれた事、それからそれと仰々しく述べ立てて、今度は仕方がないから帰るけれど、必ず再《また》自分だけは東京に来ると語つた。そしてお八重は、其奥様のお好みで結はせられたと言つて、生れて初めての廂髪に結つてゐて、奥様から拝領の、少し油染みた、焦橄欖《こげおりいぶ》のリボンを大事相に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、
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