とが許されないのである。むろん彼らはそれに満足するはずがない。かくて日本には今「遊民」という不思議な階級が漸次《ぜんじ》その数を増しつつある。今やどんな僻村《へきそん》へ行っても三人か五人の中学卒業者がいる。そうして彼らの事業は、じつに、父兄の財産を食い減すこととむだ話をすることだけである。
 我々青年を囲繞《いぎょう》する空気は、今やもうすこしも流動しなくなった。強権の勢力は普《あまね》く国内に行わたっている。現代社会組織はその隅々《すみずみ》まで発達している。――そうしてその発達がもはや完成に近い程度まで進んでいることは、その制度の有する欠陥《けっかん》の日一日明白になっていることによって知ることができる。戦争とか豊作とか饑饉《ききん》とか、すべてある偶然の出来事の発生するでなければ振興する見込のない一般経済界の状態は何を語るか。財産とともに道徳心をも失った貧民と売淫婦《ばいいんふ》との急激なる増加は何を語るか。はたまた今日|我邦《わがくに》において、その法律の規定している罪人の数が驚くべき勢いをもって増してきた結果、ついにみすみすその国法の適用を一部において中止せねばならなくなっ
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