なりしかな
ほとばしる喞筒《ポンプ》の水の
心地《ここち》よさよ
しばしは若きこころもて見る
師も友も知らで責《せ》めにき
謎《なぞ》に似る
わが学業のおこたりの因《もと》
教室の窓より遁《に》げて
ただ一人
かの城址《しろあと》に寝に行きしかな
不来方《こずかた》のお城の草に寝ころびて
空に吸はれし
十五《じふご》の心
かなしみといはばいふべき
物の味《あぢ》
我の嘗《な》めしはあまりに早かり
晴れし空|仰《あふ》げばいつも
口笛を吹きたくなりて
吹きてあそびき
夜寝ても口笛吹きぬ
口笛は
十五の我の歌にしありけり
よく叱《しか》る師ありき
髯《ひげ》の似たるより山羊《やぎ》と名づけて
口真似もしき
われと共《とも》に
小鳥に石を投げて遊ぶ
後備大尉《こうびたいゐ》の子もありしかな
城址《しろあと》の
石に腰掛《こしか》け
禁制の木《こ》の実《み》をひとり味《あぢは》ひしこと
その後《のち》に我を捨てし友も
あの頃は共に書読《ふみよ》み
ともに遊びき
学校の図書庫《としよぐら》の裏の秋の草
黄《き》なる花咲きし
今も名知らず
花散れば
先《ま》づ人さきに白の服《ふく》着《き》て家《いへ》出《い》づる
我にてありしか
今は亡き姉の恋人のおとうとと
なかよくせしを
かなしと思ふ
夏休み果《は》ててそのまま
かへり来《こ》ぬ
若き英語の教師もありき
ストライキ思ひ出《い》でても
今は早《は》や吾が血|躍《をど》らず
ひそかに淋《さび》し
盛岡《もりをか》の中学校の
露台《バルコン》の
欄干《てすり》に最一度《もいちど》我を倚《よ》らしめ
神有りと言ひ張る友を
説《と》きふせし
かの路傍《みちばた》の栗《くり》の樹《き》の下《もと》
西風に
内丸大路《うちまるおほぢ》の桜の葉
かさこそ散るを踏《ふ》みてあそびき
そのかみの愛読の書《しよ》よ
大方《おほかた》は
今は流行《はや》らずなりにけるかな
石ひとつ
坂をくだるがごとくにも
我けふの日に到り着きたる
愁《うれ》ひある少年《せうねん》の眼に羨《うらや》みき
小鳥の飛ぶを
飛びてうたふを
解剖《ふわけ》せし
蚯蚓《みみず》のいのちもかなしかり
かの校庭の木柵《もくさく》の下《もと》
かぎりなき知識の慾《よく》に燃ゆる眼を
姉は傷《いた》みき
人恋ふるかと
蘇峯《そほう》の
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