ナも、評判のあるものはなるべく沢山取寄せて、それを比較対照して読むことにしているが、一度読んでしまってからは、そのなかで自分が一番秀れていると思ったものを一種か二種か残しておいて、他はみな売り払うことにきめている。今Kという古本屋に譲ったのも、こうしたわけで私にはもう不用になっていたものなのである。
 それから二、三日すると、京都大学のD博士がふらりと遊びに来た。博士は聞えた外国文学通で、また愛書家でもあった。
「いま来がけに丸太町の古本屋で、こんなものを見つけて来ました。」
 博士は座敷に通るなりこう言って、手に持った二冊の書物をそこに投り出した。一つは緑色で他の一つは藍色の布表紙だった。私はそれを手に取上げた瞬間にはっと思った。自分が手を切った女が、他の男と連れ立っているのを見た折に感じる、ちょうどそれに似た驚きだった。書物はまがう方もない、私がK書店に売り払ったなかのものに相違なかった。
「ピンダロスにテオクリトスですか。」
 私は二、三日前まで自分の手もとにあったものを、今は他人の所有として見なければならない心のひけ目を感じながら、そっと書物の背を撫でまわしたり、ペエジをめくっ
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