ネぜそんなことをするのだ。」
と訊くと、
「投げつけられると、菌がびっくりして、その拍子に苦味《にがみ》が幾らか取れるようですから。」
という返事だ。
こうして残された少しの苦味は、この菌を酢のものにして味わう場合に、唯一つのなくてかなわぬものである。
[#改ページ]
山茶花
山茶花は泣き笑いをしている。十一月末のいじけ切った植込みのなかに立って、白に、薄紅に、寂しく咲いたその花には、風邪に罹った女の、眼の縁の上気《のぼせ》は、発熱のせいかも知れないと、そっと触ってみると、肌はしっとりと汗ばんで、思いの外冷えきっている、そのつめたさが感じられる。途の通りがかりに飛び込んで来た風来坊の泥棒蜂が、その大きな百日鬘を花びらのなかに突っ込んで、すぐにまたつまらなさそうに引返して往くのは、その蕊の匂があまりに低く、冷いのによることかもしれない。
これまで薄暗い庭の片隅で、日光に向いた一方にだけ花をもっていた山茶花を、ことしの春先に日当りのいい中央《まんなか》どころに移し植えたことがあった。いつも室の片隅から客に応対することしか知らない「女」を、大勢の群集のまんなかに引張り出すと、
前へ
次へ
全242ページ中184ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
薄田 泣菫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング