l打がありませんから。」
「ほう、詩のことか。詩のことなら、議論の題目として何不足はないはずだ。」神様も恋をする若い人達と同じように、詩は大の好物らしかった。「お前達も、黙って聴いていればいいじゃないか。」
「聴いてはいませんでしたが、黙ってはいました。なぜと申しまして、聴いたところで手前どもにはあまり難かしくて、とても解りようがなかったのですから。すると、この旦那衆は、黙っているのが気に喰わないと見えて、また一段と声を張り上げて喚き散らしなさいます。これでもか、これでもかといった風に。それを辛抱《がまん》しかねた仲間の一人が、
「どうか少しお静かに願います。」
といったものです。すると、こちらの旦那衆が、
「何っ。」
と、いいさま、いきなり起上って拳《こぶし》を振り上げなさいましたので……。」
「何でも、へい、世間の噂には、江都の詩人汪先生は、友達が宋代とやらの詩を貶《けな》したからといって、えらく腹に据えかねて、いきり立って議論を吹っかけたので、近くの樹にとまっていた小鳥が、みんな逃げてしまったそうに聞きました。一体詩人というものは、みんな牛のように吼えるものと見えまして……。」

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