Iはあの通りの気むつかしやで、滅多に他人と口をきこうともしませんでしたから。
雨蛙はこっそり無花果の葉の裏をのぞき込みました。そこには柄のついた雨除け眼鏡をはめた蝸牛がいました。この友達は今日もいつものように大がかりに自分の家を背にしょっていました。
「や。お早う。やっぱりお前だったな。」
蝸牛は老人のように眼鏡越しに相手を見ました。
「お早う。上機嫌ですな、先生。」
「先生だって。おいおい、何だってそんなにあらたまるんだい。今朝に限って。」
雨蛙はからかわれでもしたようにいやな顔をしました。
「気に触ったらごめんなさい。じゃ、やっぱりこれまで通り、お前と呼ばしてもらおうか。」
蝸牛の態度には、どこかにあらたまったところがありました。きさくな雨蛙は、それが気に入らないように頬をふくらませていました。
「お前で結構さ。もともとおれたちは長い間の朋輩つきあいで、お天気嫌いな癖も、お互いにもってる仲じゃないか。」
「そう言ってくれるとうれしい。実はさっきお前も知っているあの従弟のなめくじから、お前の噂を聞いて、すっかり感心したもんだから、つい、その……」蝸牛はてれかくしに眼鏡をはずして、雨の雫を拭きとりました。「ところで、だしぬけに変なことを訊くようだが、お前、人間に近づきがあるそうだな。」
「人間にか。人間には幾人《いくたり》か近づきがあるよ。」雨蛙は相手の気色を見てとって、すっかり機嫌をなおしたようでした。「おれが歌の稽古をつけてもらったのも、やっぱり人間だったよ。」
「ほう、歌の稽古を……」
雨蛙は以前山に棲んでいた頃、程近い人家にまぎれ込んで、竹製の刀架《かたなかけ》の孔のなかにもぐり込んでいたことがありました。ちょうど春雨の頃で、雨の音を聞きながら、口から出まかせの節で歌を唱っていると、急に座敷の方から美しい笛の音が流れて来ました。それにつれて歌を合わせていると、自分の咽喉がびっくりするほど滑らかに調子に合って来たことを、雨蛙は気づきました。そんなことを四、五日繰りかえしているうちに、雨蛙はだんだん芸が上達して、その刀架の孔から、広い世間へ這い出して来た折には、もういっぱしの歌唱いになっていました。
雨蛙は今その話を蝸牛にして聞かせました。雨除け眼鏡をはめた友達は、すっかり感心しました。
「そしてその家の主人の名前は……」
「柳田将監という笛の名人だ
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